いも類文化学ノート
『アメリカ、サツマイモ事情』

The ABCs of
Sweetpotatoes in the USA

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米国のサツマイモ栽培状況

米国では、近年、およそ3万5200 haのサツマイモを栽培している(注1)。生産州を多いほうからいうと、ベスト5は、

ノースカロライナ州

NC

1万3000 ha

全体面積の37%

ルイジアナ州

LA

8500 ha

24%

カリフォルニア州

CA

3900 ha

11%

ミシシッピ州

MS

3500 ha

10%

テキサス州

TX

2500 ha

7%

米国

USA

3万5200 ha

100%

この5州が全体のおよそ9割のサツマイモを栽培している。

これを米国人の間でよく消費されている、ジャガイモと比較してみよう。ジャガイモの栽培面積は55万1000 haである。私の出身地オレゴン州はそのうちの4%しか栽培していないが、栽培面積は2万2100 ha あり、サツマイモ栽培面積の1位と2位のノースカロライナ州とルイジアナ州を合わせた面積とほぼ同じである。

サツマイモと他の作物の面積を比較してみる。

1 トウモロコシ Corn

3246万7000 ha

2 小麦 Wheat

2872万9000 ha

3 大豆 Soybeans

2867万2000 ha

4 綿 Cotton

559万2000 ha

5 モロコシ Sorghum

409万1000 ha

6 大麦 Barley

279万6000 ha

7 カラスムギ Oats

209万2000 ha

8 Rice

123万7000 ha

9 ヒマワリ Sunflower

119万3000 ha

c

c

c

c

13 ラッカセイ Peanuts

57万8000 ha

14 ジャガイモ Potatoes

55万1000 ha

c

c

c

c

38 サツマイモ Sweetpotatoes

3万5200 ha

サツマイモは米国全体の農業のうち、かなり少ない。以上はいずれも1997年度の米国農務省統計である(注2)。

1人当たりのサツマイモ消費量は1920年代、約13kgであった。その後、消費量が減り、1961年から34年間、多少、減少の傾向があった。1961年〜1987年の間、消費量が2.0〜3.0kgで安定し、1963年の3.0kgで高くなり、1980年や1986年、1987年は2.0kgに減少している。1990年〜1997年の8年間の平均は2.0kgである(注3)。

やはり、ジャガイモの消費量が多く、サツマイモの25倍ほどである。1人当たりのジャガイモの消費量は1961年から34年間、少しずつ増える傾向にある。その間、1965年の47.1kgから1994年の60.6kgにもなっている。1991年〜1995年の5年間の平均は58.6kgである。市場で売られる1人当たりのジャガイモの量は1961年から1970年代では、中間で減り、その後、量は安定している。全体的に、その間、フライポテトやポテトチップスの消費量が増えている傾向があるので、ジャガイモの消費量は増加した(注4)。

米国でのサツマイモの利用というと、1982年では、およそ55%が市場へ、残りの45%が加工されていた。加工されたイモのほとんどが缶詰になり、5%がフレークになり、残りが冷凍コロッケのようなものになっていた。但し、市場向けの分は年々増え、1997年度では、およそ60〜70%が市場へ、残りは加工されていた。市場へ行くイモの価格は高いので、農家にとっては嬉しいことである(注5)。

Matsuzaki and Lee in sweetpotato field アラバマ州の広いサツマイモ畑。故松崎新治氏とトミー・リー氏との日米サツマイモ農家交流。1991年6月。

1998年現在の、米国のサツマイモの品種別栽培面積(%)は、

ボールガード Beauregard

75%

ヘルナンデーズ Hernandez

10%

ジューエル、
コードナー
Jewel,
Cordner

5%

ガーネット Garnet

2%

コトブキ
(日本から導入された)
Kotobuki

1%

肉が薄黄色や白に近い品種 Light meated

4%

その他の品種 Others

3%

栽培面積のおよそ95%が、米国で好まれる肉がオレンジ色の品種である注6)。米国では、2品種がサツマイモ栽培面積の85%を占めているので、遺伝子のプールが限られているため、様々な天災に弱いという危険性がある(注7)。

1989年頃、ジューエルの栽培面積が多く、全体の8割だった(注8)。時代により好まれる品種が変わるが、いずれにしても、高カロチン質で、甘い品種に人気がある。

地方により、栽培品種の面積やその割合が多少異なる。ルイジアナ州では、ボールガードがサツマイモの栽培面積の100%に近い。周辺の州、例えばミシシッピ州やテキサス州やアラバマ州でも、同品種はサツマイモの栽培面積の9割以上となっている(注9)。

General Beauregard box ボールガードは米国の1番人気のあるサツマイモ品種で、南北戦争時代の有名な南軍の将軍の名前をとっている。この箱のブランド名はジェネラル・ボールガード(ボールガード将軍)である。
(「サツマイモの箱のデザイン・アート」を参考に。)

カリフォルニア州ではコトブキが栽培されている。少数民族が多い米国では、アジア系米国人が西海岸に多く、ここでは一般的に米国人に好まれる高カロチンで、粘質系サツマイモ類だけではなく、コトブキのようなホクホクした品種も好まれるようである(注10)。

一般消費者は主に2種類のサツマイモしか意識していない。一つは、粘質で、肉がオレンジ色の品種。もう1つは、ある程度ホクホクで、肉色が薄黄色や白に近い、栽培面積の少ない品種である(注1112)。スーパーマーケットでも、サツマイモが、2種類しかないと宣伝することが多い(注13)。

主な品種紹介(注1415
ボールガード ルイジアナ州で育種され、1987年に発表された品種。収穫量が大変多い。皮がバラ色で、肉色はオレンジ色。(HortScience 22:1338-1339)
ヘルナンデーズ ルイジアナ州で育種され、1982年に発表された品種。収穫量が多い。皮が茶色系のオレンジで、肉色は濃いオレンジ色。(HortScience 27(4):19)
ジューエル ノースカロライナ州で育種され、1970年に発表された品種。収穫量が大変多い。皮が銅色で、肉色は濃いオレンジ色。(North Carolina Agricultural Experiment Station Bulletin 442)
コードナー テキサス州で育種され、1983年に発表された品種。収穫量が大変多い。皮が銅色で、肉色は薄オレンジ色。(HortScience 19:455)
ガーネット カリフォルニア州で育種され、1960年代に非公式に発表された品種のようである。カリフォルニアを中心に栽培されている。皮が濃い紫色で、肉は濃いオレンジで、焼くと甘みがある(注1617)。
コトブキ 1986年に日本から導入された品種で、皮が紅色で、肉は薄黄色、焼くとホクホクする(注18)。
肉が薄黄色や白に近い品種 このような品種は様々あるが、1つはジャージー系統の品種である。1939年以前の在来品種で、皮は薄茶色、肉は黄色で、焼くと、カロチンが多く含まれている品種よりホクホクで、米国の西海岸や東海岸の北部で多少消費されている(注17)。

残念ながら、人気のあった在来品種の一部しか遺伝子資源として保存されていないようである。例えば、1910年代の資料によれば、米国の北部の人に好まれた4品種は低カロチンで、粘質ではない品種であった。いずれも、遺伝子資源として保存されていない。また、同資料や1930年代の資料によれば、当時、南部で好まれた9品種はほとんど高カロチンで、粘質の品種であった。そのうちの3種類ドゥリーやナンシーホールやポルトリコが遺伝子資源として保存されている(注19)。

日本のサツマイモ育種専門家による市場におけるサツマイモの品種の数の少なさや、昔、好まれた品種の減少についての意見

米国の場合でも、市場に出回るサツマイモの品種は数少ないが、最近、従来の品種と違う特徴のある品種を育種中のようである。同研究プロジェクトの規模が小さく、特に、米国従来のサツマイモ品種より違う品種を好むエスニックの消費者向けになるようである(注21)。

米国でのこれからのサツマイモ育種研究課題の1つは、ウィルスと突然変異である。現在まで、ウィルスはそれほど問題ではないと思われていた。最近の研究では、ウィルスにより、収穫量や外観などに悪い影響があるとわかってきた。突然変異しやすい作物では、特に、米国のサツマイモの高カロチンが突然変異により、低カロチンになりやすいなど、突然変異が、現在、まだよくわからないように、その他にも悪い影響があるかどうか、今後も研究が進められるようである。サツマイモは種ではなく、種イモによって栽培されるので、ウィルスや突然変異のような悪い影響が蓄積する。従って、それを防ぐ研究が必要である(注22)。

米国の加工用サツマイモ育種研究も活発である。サツマイモのピューレを使う業者は2つほどある。離乳食の業者は、天然の甘さのたっぷり入ったでん粉の少ないサツマイモを利用したい。それは、固まらない、無添加物の製品を作りたいからである。十分にキュアリングされているサツマイモを使えば、最適である。また、もう1つの業者であるサツマイモパイの具を作る業者は、パイの具が十分固まるように、でん粉のたっぷり入っているサツマイモを利用したいのである。天然の甘みは無くても、必要分の砂糖を付け加えればよい。掘りたてのサツマイモを利用するのが、最適である。離乳食やパイの具の業者はサツマイモに対する条件があるので、決まっている時期でなければ、適当なサツマイモを手に入れられない。従って、工場利用の能率は低い。望ましい新サツマイモの品種というと、離乳食の業者の場合、サツマイモの育種条件は、掘りたてのときでも、でん粉を糖分に変えるベータやアルファのアミラーゼという酵素を十分活用することである。また、パイの具の業者の場合、サツマイモの育種条件は、キュアリングされているサツマイモでも、ベータやアルファのアミラーゼの酵素の働きがないほうがよい。両業者のための新品種を研究中である(注23)。


注1:米国のサツマイモの1997年度の栽培面積。

注2:Crop Production, 1997 Summary, National Agricultural Statistics Service (NASS), Agricultural Statistics Board, U.S. Department of Agriculture, January 13, 1998。
Vegetables Annual Summary, 1997 Summary, National Agricultural Statistics Service (NASS), Agricultural Statistics Board, U.S. Department of Agriculture, January 1998。

3年続いて、米国のサツマイモ栽培面積が少々減少している。但し、逆に、カリフォルニア州のサツマイモ栽培面積が増え、4年前と比べると、面積が24%増えた。理由は様々であるが、カリフォルニア州の1ha 当たりのサツマイモ生産量が米国では1番で、生産費用が比較的に低いほうである。

Vegetables and Specialties, VGS-274, Economic Research Service, U.S. Department of Agriculture, Washington, DC, USA, May 1998。

注3:FAOSTAT Statistics Database による消費統計。

Vegetables and Specialties, VGS-274, Economic Research Service, U.S. Department of Agriculture, Washington, DC, USA, May 1998。

注4:FAOSTAT Statistics Database による消費統計。

Table 32--Potatoes: Per capita consumption, in Food Consumption, Prices, and Expenditures, Stock #89015B, Economic Research Service, United States Department of Agriculture, August 1997。

注5:L.J. Duplechain、ルイジアナ州サツマイモ振興会会長、の便りより(1983年2月10日)。

LaBonte, D. R. and J. M. Cannon, "Production and Utilization of Sweetpotato in the United States," Proceedings of International Workshop on Sweetpotato Production System toward the 21st Century, edited by Dr. Don R. LaBonte, Dr. M. Yamashita, H. Mochida, March 1998, pp.29-32。カンショ国際ワークショップ、九州農業試験場や農林水産省や科学技術庁主催、宮崎県都城市、1997年12月9〜10日。

注6:Dr. Jonathan Schultheis 氏(米国ノースカロライナ州立大学園芸専門家)よりの統計(1998年5月14日の便りより)。

注7:Collins, Wanda W., Sweetpotato, New Crop Fact Sheet, Purdue University, 1995。

注8:Jones, A. and J.C. Bouwkamp, editors, Fifty Years of Cooperative Sweetpotato Research (1939-1989), Southern Cooperative Series, Bulletin No. 369, April 1992, p. 5。

注9:Dr. Christopher A. Clark 氏(米国ルイジアナ州立大学植物病理専門家)よりの統計(1998年5月14日の便りより)、Dr. Don LaBonte 氏(米国ルイジアナ州立大学試験場育種/遺伝子専門家)よりの統計(1998年5月14日の便りより)。

注10:Tom Nakashima 氏(カイフォルニア州のコトブキなどのサツマイモなどを栽培している農家)からの情報、1997年1月。

注11:米国のインターネット食品辞典:sweet potato

注12:米国の料理ホームページで、サツマイモを紹介する記事。同記事がサツマイモの肉色が薄黄色やオレンジ色のイモを紹介し、料理も紹介している。1997年11月24日。

注13:ウェグマンズという米国のニューヨーク州周辺のスーパーのサツマイモ宣伝

注14:Schultheis, Jonathan R., W. W. Collins, Sweetpotato Varieties, Leaflet No: 23-D, North Carolina Cooperative Extension Service, January 1994 (Revised)。
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注15:ノースカロライナ州立大学で作られたサツマイモ栽培関係のパンフレット類

注16:Dr. Don LaBonte よりの便り、1998年6月1日。

注17:Dr. Don LaBonte との文通交換による便り、1998年6月3日(ドゥエルよりLaBonteへ)、1998年6月4日(LaBonteよりドゥエルへ)。

Dr. Bill L. Weir (Cooperative Extension, University of California) よりDr. Wayne J. McLaurin (Extension Horticulture Department, University of Georgia) への便り、1998年8月3日。

注18:米国では、主にコトブキを栽培しているカリフォルニア州のナカシマ農家による。

又、米国農務省遺伝子データバンクによる情報。

コトブキを検索するために、米国側の記入のミスで、kotopuki を記入して検索する必要がある。

注19:Conolly, H.M., Illustrated Lecture on Sweet Potatoes: Culture and Storage, United States Department of Agriculture, Syllabus 26, Washington, D.C., April 21, 1917, p. 16.

Carver, George W., How the Farmer Can Save His Sweet Potatoes, and Ways of Preparing Them for the Table, Bulletin No. 38, Tuskegee Institute, November 1936, p. 3.

注20:九州農業試験場畑地利用部、甘しょ育種研究室室長、山川 理氏による日本語のサツマイモに関する意見交換電子メールのリスト[sweetpotato:00204] Re: TAIHAKU 1998年6月12日の便りより。

注21:Collins, Wanda W., Sweetpotato, Root Vegetables: New Uses for Old Crops, In: J. Janick and J.E. Simon (eds.), New Crops. Wiley, New York, 1993, p. 533-537。

注22:Dr. Christopher A. Clark (Plant Pathologist, Louisiana Agricultural Experiment Station, Louisiana State University, Baton Rouge, Louisiana, USA) による Ipomoea 英語による世界中のサツマイモ研究者に関する意見交換電子メールのリスト[ipomoea:30] cultivar decline - II、1998年6月4日の便りより。

注23:Wilson, Paul W., Don R. LaBonte, Durel J. Romaine, Nolan P. Farace, Selection of Sweet Potato Cultivars for Processing Characteristics, Louisiana Agriculture, Vol. 40, No. 4, Fall 1997, p. 14。


Copyright by Barry Duell, 1999.


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