いも類文化学ノート
『アメリカ、サツマイモ事情』

The ABCs of
Sweetpotatoes in the USA

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ジョージ・ワシントン・カーバーとタスキーギ大学

 ジョージ・ワシントン・カーバーは40年以上、米国アラバマ州にあるタスキーギ大学で、サツマイモやラッカセイなどを研究する農学化学者だった。1860年頃生まれ、当時奴隷だった。南北戦争の後、黒人が自由になったので、働きながら勉学し、修士課程まで教育を受け、1896年にタスキーギ大学の農学研究の研究長になった。

ジョージ・ワシントン・カーバー先生は、アラバマ州タスキーギ大学で、サツマイモやラッカセイなどの農作物研究者として有名だった。1930年代のころ。写真提供はNational Park Service - George Washington Carver National Monument。

タスキーギ周辺の黒人や米国東北地方の白人の努力により、タスキーギ学院が1881年に創立され、ブッカー・T・ワシントンという黒人が最初の学長になった。黒人の生徒が働きながら勉強し、卒業後、社会で、黒人の地位をよりよくしようという主旨のもので、初めは、黒人のための小学校から大学までの教育施設で、卒業生が先生になっていた。現在は大学のみで、民族にかかわりなく入学できるようになっているが、現在でも、黒人の学生数のほうが多い。

カーバーがタスキーギ大学にいた頃、まだ、黒人に対する差別がひどかった。ワシントン学長の考え方は、黒人に教育を与えるのは黒人が白人と平等になるための政治運動を起こすことではなく、黒人の経済力を上げ、最終的に、黒人の社会的立場が上がるということだった。このことはカーバーも学長に同意した。

タスキーギの周辺には、農業を仕事とする黒人が多かった。カーバーがタスキーギ大学の学生を教えながら、その人たちにも、サツマイモやラッカセイなどの作物の効率的な栽培や利用方法を教え、それをライフワークとした。タスキーギ大学で、1943年に他界するまで活躍した。

カーバーがラッカセイを作物として推薦したのは、栄養があるだけではなく、窒素を畑へ返す作物だったからである。当時、綿の連作栽培により、その地方の畑の栄養が失われてしまった状況であった。カーバーが貧しい農家に、科学的な立場から、正しい農業法を教え、生活レベルが上がるように努力した。

カーバーの努力により、ラッカセイが東南部の重要な作物になっていった。1940年ごろには、ラッカセイが綿の次に、東南部において収入になる作物に上がってきた。

カーバーが、サツマイモを取り上げたのは、この作物が農民の栄養源になるし、家畜の飼料にもなるし、市場で売れば金になるなどの理由である。

また彼はサツマイモやラッカセイなどの加工品も研究した。例えば、サツマイモから、粉や酢やゴムやインキなど118くらいの製品を工夫し、ラッカセイから、チーズや豆乳や石鹸やプラスチックなど300くらいの製品を工夫し、作り上げた。

カーバーが活躍した頃、黒人に対する差別は特にひどく、彼がどういう研究家であったか、判断が難しい。カーバーが黒人のための政治運動を起こすような人物ではなかったので、だれからも愛された。彼は、多くの黒人同様、東南部に住み、黒人大学で農業化学を研究した。カーバーに反対する白人はいなかったのだろうか。モデル的な黒人と思われたのだろうか。

黒人と白人が政治的に平等になる運動をしていた黒人からは、嫌われていたようである。いずれにしても、1943年のカーバーの死後、米国国会の宣言により、1946年1月5日が彼を記念する日になった。残念ながら、その日のことを覚えている人は現在少ない。1998年4月にサウスカロライナ州議会がその記念日を復活させるために、1月5日をカーバー記念日として、再び宣言した。それ以前、すでに、10州が同日を宣言していた(注1)。

また、ミズーリ州のカーバーの生まれた場所が、1943年のカーバーが亡くなった年に、国立記念公園になった(注2)。カーバーのタスキーギ大学での活躍を記念するために、1938年にタスキーギ大学がカーバー資料館を創立した。そこには、カーバーの一生や彼の研究が展示されている。1977年に、同資料館が国の文化財になり、その後、タスキーギ大学の歴史を多くの人に伝えるために、その展示も付け加えられている(注3)。

GWCarver Museum ジョージ・ワシントン・カーバー資料館(アラバマ州タスキーギ大学にあり、米国の指定文化財)。著者とカーバー氏の銅像。1991年6月。

現在、タスキーギ大学では、サツマイモやラッカセイの研究が続いている。米国航空宇宙局(NASA)より依頼を受け、その二つの作物がどのように宇宙で栽培でき、食料になるかを、水耕栽培や加工食品や廃棄物のリサイクルなどの面から研究されている。1991年6月、タスキーギ大学で、国際サツマイモ学会が開かれ、世界的に重要なサツマイモの研究交流の場になった。また、世界中から参加したサツマイモの研究家に、タスキーギ大学でのサツマイモと宇宙の研究を紹介する機会にもなった。同学会の論文集に、世界のサツマイモ事情に関する論文のほかに、タスキーギ大学のサツマイモと宇宙についての論文が多く載せられている(注4)。

タスキーギ大学には、サツマイモとラッカセイの宇宙での利用を研究するための施設があり、様々な研究が進んでいる(注5)。この作物を研究課題として取り上げる理由は様々である。まず、宇宙飛行士が自分の食料を少しでも宇宙船内で栽培できれば、宇宙へ持っていかなければならない飲食料や酸素が減り、宇宙船の荷物が減り、全体の予算が減る。特に月や火星などへの長期宇宙旅行には重要である。なぜならサツマイモの場合、栄養がたくさん含まれ、環境のストレスに強く、廃棄物が少なく、狭い面積で短時間にたくさん生産できるからである(注6)。

11月の第4木曜日が「感謝祭」で、その日、米国では、七面鳥と一緒に、サツマイモなどの特別料理を食べる。1997年の「感謝祭」のとき、NASAのスペースシャトルは宇宙を飛行中だったので、何人かの宇宙飛行士は特別な「感謝祭」の食事をした。宇宙飛行士の一人がサツマイモがそのメニューにないのは残念であると言っていた(注7)。サツマイモはまだどんな形でも宇宙飛行士のメニューにはないが、これからそれをメニューに付け加えるには時間がかかるようである(注8)。

また、同大学には、国立農業図書館のサツマイモ分室が設置されている。インターネットによる情報提供もできる(注9)。


注1:South Carolina Legislature, Bill 4987, Dr. George Washington Carver Day, January 5(カーバーの日を宣言する本文へ

注2:George Washington Carver National Monument, Diamond, Missouri, USA(カーバーの生まれたところが国立記念公園になっている)本文へ

注3:George Washington Carver Museum established(カーバー資料館の創立について)本文へ

George Washington Carver Museum becomes a national historic site(カーバー資料館が国の文化財になることについて)本文へ

注4:Hill, Walter A., Conrad K. Bonsi, Philip A. Loretan, editors, Sweetpotato Technology, for the 21st Century, Tuskegee University, Tuskegee, Alabama, USA, 1992, 604 p。本文へ

注5:タスキーギ大学でのサツマイモと落下生の宇宙研究所のリンク。本文へ

注6:Hill, W.A., P.A. Loretan, C.K. Bonsi, The Sweet Potato for Space Missions, Controlled Environmental Life Support Systems, Tuskegee Institute Press, Tuskegee, Alabama, 1984, pp. 3-15。本文へ

注7:CNNニュースよりのニュース記事Thanksgiving in space: Pass the processed turkey本文へ

注8:タスキーギ大学のDr. Conrad K. Bonsiからの話し、1997年12月。本文へ

注9:国立農業図書館のサツマイモ分室がタスキーギ大学である。本文へ


参考文献:
Carver, George Washington, How the Farmer Can Save His Sweet Potatoes, Bulletin No. 38, November 1936, Tuskegee Institute Press, Tuskegee, Alabama, USA, 1937, 21 p.

Hill, Walter A., Conrad K. Bonsi, Philip A. Loretan, editors, Sweetpotato Technology, for the 21st Century, Tuskegee University, Tuskegee, Alabama, USA, 1992, 604 p.

Hill, W.A., P.A. Loretan, C.K. Bonsi, The Sweet Potato for Space Missions, Controlled Environmental Life Support Systems, Tuskegee Institute Press, Tuskegee, Alabama, USA,1984, 81 p.

Holt, Rackham, George Washington Carver, an American Biography, Doubleday, Doran and Co., Inc., Garden City, N.Y., USA, 1943, 342 p.

King, John Louis, Jr., George Washington Carver, New Encyclopedia Britannica, Vol. 2, Encyclopedia Britannica, Inc., Chicago, Illinois, USA, 1993, p. 913.


Copyright by Barry Duell, 1999.


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