いも類文化学ノート
『アメリカ、サツマイモ事情』

The ABCs of
Sweetpotatoes in the USA

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米国の外食サツマイモ料理レストラン、ロードハウスグリル


米国では、サツマイモは日常食品ではない。けれども最近、新しくできたレストランチェーン店などのメニューに、サツマイモが出始めている。米国では、今まで外食でサツマイモを食べようと思ったら、黒人エスニック料理店へ行かなければ、なかなか食べられなかった。黒人エスニック料理レストランは、黒人が多く住んでいる大都市の中心部などにはあるものの、その数は限られている。

サツマイモは黒人を含む東南部の人たちに好まれた。南北戦争のころまで、東南部の田舎に多く住んでいた黒人の粗末な料理がヒントになっている。大都会へ移住した黒人は昔食べたものを懐かしがり、現代風黒人エスニック料理に工夫されている。この料理は黒人の民族性を表わすものの一つとなり、黒人エスニック料理店は普及した。東南部は暖かいところが多いので、ジャガイモ栽培には向いていなかったが、暖気候を好むサツマイモは多く栽培され、現在より多くの人に好まれていた。食べ方はベークポテト風サツマイモや様々なデザート類などであった(注1)。

黒人エスニック料理レストランの主菜は様々あり、挽肉料理やチキンフライや鯰ソテーなどがある。チェーンレストランより自営の店が多いので、店によってバリエーションが違う。

私はワシントン州シアトル市のトムソンズ・ポイント・オブ・ビューという黒人エスニック料理店で、鯰のパンフライを注文した。おかずの次に、「ベジタブル」つまり副菜を注文した。ただし、黒人エスニック料理店では、副菜の解釈が日本と少し違う。副菜に入るのは、野菜類だけではなく、ご飯も豆料理もイモ料理等も入る。定食を注文すると、副菜2品が選べるので、洋風大学イモ、ササゲ豆の煮込みを注文した。主食はトウモロコシ粉からできたホットケーキであった。デサートはやはりサツマイモパイにした(注2)。

カロチンを多く含むサツマイモの品種が米国では好んで食べられ、日本の大学イモやイモパイとは見た目も舌触りも違う。また、ニッキなどの調味料を多く使うので、イモらしい味がそれほど残らない。

米国では、サツマイモの外食料理というと、場所が限られているが、時期により、もっと楽に手に入ることもある。つまり、「感謝祭」である11月の第4木曜日である。その日は、17世紀に北米へ移住した人々がインディアンのおかげで、収穫ができたことを祭る日で、食卓には七面鳥、サツマイモ、クランベリー料理などがならび、それらは北中南米大陸原産のものである。日本の正月のように、親戚が集まり、特別の料理を食べる。一人で過ごす場合でも、多くのレストランで、「感謝祭」の時期には、「感謝祭」用の特別のメニューが出る。

数年前までは、七面鳥もサツマイモもクランベリーも、「感謝祭」の時期でなければ、なかなか手に入らなかった。クワイが日本のおせち料理以外に、それほど食べる機会がないのと似ている。七面鳥業界やクランベリー業界の努力の結果、現在は、1年中、七面鳥やクランベリー製品を手に入れることができるようになったきた。普及の理由の一つは各業界が七面鳥やクランベリーのイメージを変えようとしたことである。つまり、従来の「感謝祭」の七面鳥というと、数キロの肉の固まりで、焼きあげるのが1日の仕事だったが、七面鳥業界は工夫の結果、チキンと同様、部分売りだけではなく、七面鳥の加工食品も出すようにしたのである。

クランベリー業界も従来、七面鳥の添え物として、生クランベリーの冷凍食品やクランベリーの缶詰の製造、販売ぐらいがほとんどであったが、現在、クランベリー飲料や乾燥クランベリースナックなども急に増やしている(注3)。残念ながら、サツマイモ業界によるサツマイモ普及運動はそれほど活発ではないので、依然として、「感謝祭」の食品としてのイメージが強い。

ただし、あるレストランチェーン店がその事情を変えようとしている。ロードハウスグリル(Roadhouse Grill)というチェーンレストランのメインはビーフステーキである。1993年に、第1店舗がフロリダ州で開店した。現在、10州に約60店舗あり、米国の東南部に多い(注4)。ただし、西海岸のオレゴン州に関連のレストランが3店もある(注5)。

Gary with sp at Roadhouse Grill

ロードハウスグリル・レストランにて。著者の弟、ゲリー。皿の手前から、ピラフの上に、野菜と牛の串焼き。後ろは、ベークポテト風サツマイモとパセリ。1998年8月12日。

ロードハウスグリルはファミリーレストランで、値段もそう高くない。レストランに入ると、レジの脇の大きな入れ物にピーナツがたくさん入っている。人気のあるレストランなので、ピーク時間には待つ客が多い。待っている客が時間つぶしに、ピーナツを摘み、殻を床に捨ててもかまわないことになっている。各テーブルにもピーナツが置いてあるので、注文を待つときも、ピーナツを摘み、殻を床に捨てる。テーブルがやっと空き、ウェイトレスに案内されると、カチカチという音が足元から聞こえる。子供はこういうことを自分の家庭ではできないので楽しんで、殻を床に捨てる。

サツマイモの話へ戻りましょう。ロードハウスグリルは従来のステーキレストランと違い、定食を注文すれば、ベークポテトの副菜のほか、天火で焼いたサツマイモを選択できる。味付けは黒砂糖とニッキである。その他、デザートメニューにサツマイモパイもある。

ロードハウスグリルは、社長がマレーシア人である。1998年の春の目標宣言は店舗をもっと増やすことである。

ロードハウスグリルの他に、ビュッフェ株式会社(Buffets, Incorporated)がある。これはカントリービュッフェやホームタウンビュッフェというビュッフェ式ファミリーレストランで350程の店舗は30以上の州に及び、日曜日のメニューに、洋風大学イモのサツマイモ料理がある(注5)。

また、自営のいくつかのレストランも近頃では、サツマイモをメニューに取り入れている。例えば、私の生まれ故郷のカンザス州ヘーズ市のあるレストランは週末のビーフステーキ定食の選択として、副菜の一つに、ベークポテト風サツマイモがある。4年ほど前から始められたこの副菜は人気があり、客の半分程はそれをポテトより好んでいる。味付けはバターか黒砂糖である。この人口2万人程の大学町の他のレストランも、同様にサツマイモをメニューに入れ始めている(注6)。


注1:Macintosh, Elaine, American Food Habits in a Historical Perspective, Praeger Publishers, Westport, Connecticut, 1995, p. 82.
Thomas, Gertrude I., Foods of Our Forefathers, F.A. Davis Co., Philadelphia, Pennsylvania, 1941, p. 50.

注2:トムソンズ・ポイント・オブ・ビュー(Thompson's Point of View)という黒人エスニック料理レストランについての「SeattleTimes」新聞記事(1998年5月6日)を参考に。

注3:オーション・スプレーは1930年にできたクランベリー業界の共同組合である。

注4:ロードハウスグリル(Roadhouse Grill)というレストランチェーン店の会社案内。

注5:ビュッフェ株式会社(Buffets, Inc.)というレストランチェーン店の会社案内。

注6:The Corner Garden Restaurant, Hays, Kansas. Information from waitress (owner's mother) and menu insert, Aug. 20, 1998.


Copyright by Barry Duell, 1999.


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