いも類文化学ノート
『アメリカ、サツマイモ事情』

The ABCs of
Sweetpotatoes in the USA

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米国サツマイモ研究家協力会

米国サツマイモ研究家協力会(National Sweetpotato Collaborators Group)がサツマイモ研究家の情報交換ネットワークであり、1939年に創立された。創立の主な目的は、在来品種が病気に弱くなったので、病気に強い新しい品種の育種を進めることである。協力会ができる以前、新しいサツマイモの品種を作るのは、突然変異から特性のよいサツマイモを選ぶことだったので、望ましい新品種を作るには能率が悪かった。1937年に、ルイジアナ州立大学のジュリアン・ミラー先生などが、サツマイモの花を咲かせ、種を作らせる方法に成功し、2年後に、ミラー先生をはじめ、他の発起人でできた米国サツマイモ研究家協力会の会員がサツマイモを育種するために、重要な技術となっていた(注1)。

協力会の創立以前、1912年、サツマイモの栽培面積の85%以上が米国東南部の12州であった。1929年末から大不況が始まり、その対策として、サツマイモの栽培面積が約25%増えた。サツマイモは特に東南部の田舎の貧しい人の重要な食べ物になり、サツマイモの重要さが増し、協力会成立の理由の1つになった(注2)。

メンバーの構成は米国農務省をはじめ、サツマイモ栽培が多い東南部の州立大学付属などの農業試験場のサツマイモ研究家であった。その後、メンバーが少しずつ変わり、栽培州以外の研究家や業界メンバーも入ってきた。育種の他、加工食品やサツマイモ栽培の機械化や貯蔵、生理学、病虫学、など、活動研究分野が増え、現在に至っている(注3)。

第2次世界大戦中、軍事用サツマイモ加工食品の研究が進められた。保存食が必要だったので、乾燥加工が主な目的だった。他に、でん粉が多く含まれている品種が育種された。サツマイモでん粉が当時、食用、繊維、工業用となっていた(注4)。

1960年に、ルイジアナ州で、センテニアル(Centennial)という品種が発表され、その後20年ほど、米国で栽培された主なサツマイモ品種である(注5)。

1969〜89年の間に、米国では、29のサツマイモ品種が発表された。広く普及した品種の1つは、ジューエルであった。1971年に、ノースカロライナ州で発表され、1989年ころ、米国のサツマイモ栽培面積の8割を占めた(注6)。

この20年間、品種のほとんどはカロチンの多く含まれる、オレンジ色の品種であり、肉色が白や薄黄色の品種も3種ほど発表された。米国では、いずれもあまり栽培されない品種が、日本人の好むようなサツマイモの品種なので、紹介したいと思う。それらの1つは、1977年に、アラバマ州で発表されたローホブランコ(Rojo Blanco)である。皮が紅色で、肉が白、調理すれば、ホクホクになる。1987年のサウスカロライナ州でのスモア(Sumor)は、皮が黄色や茶色で、肉が白や黄色、調理すれば、それほど甘くなく、ジャガイモと似ている品種である。3番目は、1987年に、ノースカロライナ州で発表されたホイートディライト(White Delite)で、皮がピンク紫、肉が薄黄色、味も舌触りもよい品種である。(注7

現在の米国のサツマイモ育種研究は、主に、東南部のノースカロライナ州立大学のサツマイモを研究する園芸試験場やルイジアナ州立大学のサツマイモ試験場、サウスカロライナ州の米国農務省畑作研究場で行われている(注8)。日本でこれに相当する施設は、農林水産省の2つの施設で、1つは、茨城県つくば市にある農業研究センター作物開発部甘しょ育種研究室、もう1つは、宮崎県都城市にある九州農業試験場畑地利用部甘しょ育種研究室である。

Mike Cannon, La. SP Station

(左)ルイジアナ州立大学のサツマイモ試験場長のマイク・キャノン氏。米国で、サツマイモ専用試験場はたった1つである。写真提供はMike Cannon氏。(上)ルイジアナ州立農業試験場のサツマイモ特集の雑誌(1997年秋)。

ノースカロライナ州の場合、1997年度の農家のサツマイモによる収入は、5208万ドル(約57.3億円)になっている。サツマイモは他の野菜や他のイモ類より、高い収入となっている。但し、タバコ、綿、トウモロコシ、大豆、などの農作物の収入の方はそれよりも何倍も多いのである。1996年度の場合、サツマイモは同州の総農作物収入の1.6%であった。それと比べると、タバコの30.0%はなんと言っても1番である(注9)。

ルイジアナ州の場合、1997年度の農家のサツマイモによる収入は、5431万ドル(約59.7億円)となり、ノースカロライナ州より多い。それは他に栽培されている野菜やイモ類を合わせた総収入より多い収入になっており、重要な農作物の1つである。但し、綿、砂糖キビ、米、大豆、などの農作物の収入の方はその何倍も多いのである。1997年度の場合、サツマイモは同州の総農作物収入の3.1%であった。それと比べると、綿の20.6%は1番である(注10)。

米国のサツマイモ品種保存は、米国農務省が、ジョージア州立大学(グリフィン市)での植物遺伝子保存試験場で行われている。ここでは、サツマイモの791品種がリストアップされているが、全滅してしまった品種もあるので、実際には640品種程の苗を手に入れられる(注11)。

米国サツマイモ研究家協力会と米国サツマイモ振興会(Sweet Potato Council of the United States, Incorporated)は協力関係にある。米国サツマイモ振興会のメンバーの多くが、栽培農家やサツマイモ流通の関係者なので、両会の大きな目標の1つは、米国のサツマイモ消費量を増加させることにある。1989年の目標は、今後20年をかけて、1人当たりの1年間の消費量を5kgまで増加させることであった(注12)。

米国サツマイモ研究家協力会はさらに、米国園芸研究家学会南部支部の大会の一部として開かれている。それはさらに、南部農学研究家協会(Southern Association of Agricultural Scientists)の大会の一部として、毎年2月の第1週に大会を開き、会場は南部農学研究家協会の13州で交代で開く(注13)。

米国サツマイモ研究家協力会の国際協力もあり、国際ジャガイモセンター(CIP)や国際熱帯いも類学会(International Society for Tropical Root Crops)等とも協力し合っている(注14)。その交流により、各国のサツマイモ品種交換が行われたり、お互いの育種企画も協力し合うこともある(注15)。

米国サツマイモ研究家協力会はボランティア組織である。会員は交代で会長になり、連絡先もそれによって変わる。会費は年間5ドル(約550円)で、会長は年大会での研究発表をまとめ、大学の出版部を通し、安く発行し、会員へ配る。また、サツマイモの研究は大概、農務省や州レベルで行われているが、それを超えて、全米の最新サツマイモ情報交換が行われている(注16)。

米国サツマイモ研究家協力会の会員の多くは、米国農務省の援助金を利用しているし、研究状況はインターネットなどで見られる(注17)。

米国サツマイモ研究家協力会の連絡先:

Dr. Wayne J. McLaurin
Extension Horticulture Department
University of Georgia
Athens, Georgia 30602, U.S.A.
電子メール: wmclauri@uga.cc.uga.edu

米国サツマイモ振興会の連絡先:

Harold Hoecker
P.O. Box 14
McHenry, Maryland 21541, U.S.A.


注1:Dukes, P.D., Alfred Jones, W.J. McLaurin, The First Fifty Years - A Retrospective of Cooperative Sweetpotato Research, 参考文献1、1〜3ページ。

注2:同上、1ページ

注3:同上、3、4ページ

注4:同上、3ページ

注5:同上、4ページ

注6:同上、5ページ ;Collins, Wanda W., M.R. Hall, Sweetpotato Breeding and Genetics, Germplasm, and Cultivar Development, 参考文献1、28ページ。

注7: Collins、参考文献1、28、19ページ;インターネットにより、米国農務省のジョージア州立大学(グリフィン市)での植物遺伝子保存試験場で保存されているサツマイモの品種の検索が以下の所でできる。sweet potato を記入し、検索すれば、保存された品種がリストアップされる。

連絡先は:
University of Georgia
Plant Genetic Resources Conservation Unit
1109 Experiment Street
Griffin, Georgia 30223-1797
United States of America

E-mail: S9@ars-grin.gov

注8:米国では、日本で使う農林番号に相当する制度はない。各育種の試験場はそれぞれ自分の特定な番号付けをする制度があるので、それを新サツマイモの品種に付けている。ノースカロライナ州立大学のサツマイモを研究する園芸試験場では、試験中のサツマイモの番号は「NC」で始まる。ルイジアナ州立大学のサツマイモ試験場では、試験中のサツマイモの番号は「L」で始まる。また、米国農務省のサウスカロライナ州の畑地試験場では、試験中のサツマイモの番号は「W」で始まる。例えば、現在、栽培面積が1番のボールガード(Beauregard)は、ルイジアナ州立大学のサツマイモ試験場で試験中のときの整理番号は「L82-508」。「82」は1982年に交配された種からできたという意味で、「508」は、その年の508番目に選ばれた魅力のありそうな品種であった。
Dr. Mike Cannon, Resident Director, Sweet Potato Research Station, Chase, Louisiana よりの便り、1998年7月8日。

ノースカロライナ州立大学のサツマイモを研究する園芸試験場の連絡先:
1. Horticultural Crops Research Station
2450 Faison Highway
Clinton, North Carolina 28328-9501, U.S.A.

2. Lower Coastal Plain Tobacco Research Station
(Cunningham Research Station)
200 Cunningham Road
Kinston, North Carolina 28501-1700, U.S.A.

3. Sandhills Research Station
2664 Windblow Road
Jackson Springs, North Carolina 27281-9505, U.S.A.

4. Central Crops Research Station
13223 US 70 West
Clayton, North Carolina 27520-2127, U.S.A.

(Dr. Jonathan Schultheis 氏(米国ノースカロライナ州立大学園芸専門家)よりの便り、1999年3月15日より。)

ルイジアナ州のサツマイモ試験場(同州の農業試験場ネットワークの1場である )の連絡先:
Sweet Potato Research Station
Louisiana Agricultural Experiment Station
P.O. Box 120
Chase, Louisiana 71324, U.S.A.

米国農務省畑作研究場の連絡先:
USDA Vegetable Laboratory
2875 Savannah Highway
Charleston, South Carolina 29414-5333, U.S.A.

注9:1ドルが110円の場合(1999年1月現在)。
ノースカロライナ州の1997年度のイモ類や野菜の収入報告
ノースカロライナ州の1994年〜1997年度の農産業収入報告

注10:1ドルが110円の場合(1999年1月現在)。
ルイジアナ州の1997年度の農産業収入報告

1996年度のサツマイモ収入については:
Benedict, Linda Foster, Louisiana's Sweet Potato Industry, Louisiana Agriculture, Vol. 40, No. 4, Fall 1997, p. 6。

注11:Dukes、参考文献1、6ページ

注12:同上、9ページ

注13:Dr. Wayne J. McLaurin氏(米国ジョージア州立大学園芸専門家、米国サツマイモ研究家協力会の1998年現在の会長)よりの便り、1998年7月20日。
Southern Association of Agriculturial Scientists)について。

注14:Dukes、参考文献1、8ページ

注15:「HortScience」という米国園芸学学会発行の年に6回発行される園芸専門誌がある。内容の1つに、サツマイモなどの園芸新品種紹介記事などもある。同専門誌により、米国などで、発表したばかりの新品種はどういうものかがわかる。目を引く品種があれば、各国の農務省レベルで、依頼により、品種交換が行われる場合もある。

米国の最新サツマイモ品種の1つは今後「HortScience」で発表する予定のある、Carolina Ruby という、ノースカロライナ州で育種されたものので、整理番号は「NC-C75」である。
(Dr. Wayne J. McLaurin氏よりの便り、1998年7月20。)

日本の新サツマイモ品種はつくば市や都城市にある試験場の研究報告書に載せられ、最終的に「Plant Breeding Abstracts」という全世界規模の植物育種データベースに載せられるので、そこを検索すればよい。
(九州農業試験場畑地利用部、甘しょ育種研究室、山川理室長よりの便り、1998年7月23日)

日米サツマイモ品種の交換の例として、志賀敏夫氏による(元農林省千葉県四街道町のサツマイモ試験場)1979年頃〜1982年頃の米国農務省との文通交換により、米国側の依頼により、日本のサツマイモの品種が送くられたり、また、日本側の依頼により、米国の品種が届けられることもあったとわかる。

日米の間に、生のサツマイモを直接交換するのは禁じられている。病気などがお互いに広がらないように植物検疫は必要とされている。志賀氏によれば:

「栄養繁殖作物の各国間の移動が、植物防疫法に基づき厳しく禁じられているのです。我々育種家は、輸入したい品種があるときは、各国の特別の輸入許可をもらって、輸入します。このとき各国が輸入禁止品の輸入を許可したラベルを渡し、輸入品の表にそのラベルを貼って、日本の場合は横浜の植物防疫所に送られ、大和市にある横浜防疫所の隔離圃場に送られます。

材料はそこで栽培され、電子顕微鏡でウイルスの有無が検定され、ウイルスがいなければ渡してもらいますが、もしウイルスを持っていると、廃棄するが、ウイルスのフリー化を自分で行うかが聞かれます。我々はその材料が欲しいので、隔離された条件下で、自分で茎頂培養を行う事を告げます。茎頂培養でウイルスフリー植物ができたら、再び大和市の隔離圃場に持っていって、ウイルスがないことを確認してもらった後、手渡してもらいます。

アメリカでもほぼ同じ手続きが行われていると思います。」
(志賀敏夫氏(元農林省千葉県四街道町試験場)から川越サツマイモ資料館井上浩館長への便り、1998年7月9日。)

「HortScience」あるいは「Plant Breeding Abstracts」、は日本でも閲覧できる。そのところでは、「HortScience」や「Plant Breeding Abstracts」を検索すれば、日本のどこの図書館で同雑誌を揃えてあるか、すぐわかる。

注16:1ドルは110円の場合(1999年1月現在)。
Dr. McLaurin氏よりの便り、1998年7月20日。

注17:米農務省の援助金を利用しているサツマイモ研究家の研究状況。これは、Current Research Information System (CRIS)(時事研究データベース)で、1998年7月現在、サツマイモ関係の研究課題は300件以上であった。


主な参考文献
1) Jones, A., J.C. Bouwkamp, editors, Fifty Years of Cooperative Sweetpotato Research, Southern Cooperative Series, Bulletin No. 369, April 1992.


Copyright by Barry Duell, 1999.


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