米国の農家のサツマイモ栽培面積は1農家当たり、約100〜800haの単位である。1ha分のサツマイモを生産するための経費が3000ドル(約33万円)かかる(注1)。その経費のうちの1/3程度が労働費である。季節農業労働者を使う農家は多い。労働者が多く必要とされるのは特に、年に2回である。1回目は、5〜6月の苗切り、苗挿しの時期で、2回目は、8〜11月の収穫時期である。
季節農業労働者に支払われるのは、最低賃金で、1時間、5.15ドル(約570円)である(注1)。その賃金で、信頼できる労働者を募集するのは難しい。メキシコ系の季節農業労働者が最近増えてきた。季節農業労働者を使うために、労働安全訓練や保険などの費用も必要であるし、その書類事務も必要となる。それはサツマイモを作るための生産費用の1/3になる。6年間に、最低賃金が上がってきたので、時間給の労働者の生活は改善されたが、サツマイモ農家にとって、大きな経費となっている(注2)。労働費を減らすために、農家はできる限り、労働者の人数を減らさねばならない。その結果、手作業から機械化に切り替えることが進んでいる(注3)。
典型的なサツマイモ農場は約140haで、120〜140haの農場でなければ、必要な機械や貯蔵庫や出荷施設などに出資する余裕がない。典型的なサツマイモ農家が100〜200万ドル(約1.1〜2.2億円)を必要な施設に投資している(注1)。
栽培品種はほとんど、肉にカロチンが多く含まれ、濃いオレンジ色のものである。地域の好みや、米国に住む少数民族の好みの違いから、ニュージャージー州やニューヨーク州や西海岸あたりでは、以上の品種の他に水分のもっと少なく、肉が黄色の品種も市場に出回っている。キューバ系米国人をはじめ、中南米系米国人が多く住んでいる南フロリダ州では、でん粉質が高く、肉が白く、ホクホクとしている品種の栽培の消費も多い。同品種は昔、カリブ海より導入され、1年中マイアミ市周辺の市場に流れている。キューバでは、1年の1人当たりのサツマイモの消費量が16kg以上で、フロリダ州の南部でも、キューバ系米国人が多いので、その消費量が多い。南フロリダ州では、年に2回、サツマイモが栽培される。西海岸あたりでは、アジア系向けの品種もある。それが日本より導入されたコトブキである。栽培面積は約200ha以上である(注4)。それでも、米国で栽培している面積の95%程度が肉色の濃いオレンジ色の品種である(注5)。
サツマイモ栽培の始まりが2〜3月で、その頃、種イモを貯蔵庫から出し、苗床を作る。1m幅のみぞを掘り、殺菌剤がかかっているイモを伏せて、8cm程度の土で覆う。種イモを暖めるために、黒マルチもその上に覆う。苗が地面から出る頃、マルチを外し、苗の長さを揃える。もっと丈夫にするために、農家によっては、機械で、苗の上を切り揃えることもある。
サツマイモの苗を挿す時期は5〜6月である。多くのサツマイモ農家が苗を切るために、それを手作業でする。しかし、苗切り機を使えば、労働者の100人を5〜6人に減らせるし、4時間で、42万本程度の苗を切ることができる。
6ウネ苗挿し機を使えば、13人で、1日(8時間)に4.7ha程度、1haに3万本程度の密度で挿すことができる。苗挿し速度は、1秒で、苗を1本挿す。6ウネを平行に挿すので、1秒で、苗を6本挿す。苗挿し機の速度は約1.2kmである(注6)。
ルイシアナ州でのサツマイモの8ウネ苗挿し機。前方に進むトラクターは労働者16人を乗せる機械を引いている。労働者は、機械の上に座ったまま苗をはさみ込んでいく。はさみ込まれた苗は機械によって畑に挿し込まれてゆく。ただ今、休憩中。写真提供はDon LaBonte氏(ルイジアナ州立大学農業学教授)。 |
現在栽培しているサツマイモの品種は以前の品種より病気に強いので、農家のサツマイモの病気に対する悩みが比較的少なくなってきた。但し、ウィルスはサツマイモの収穫量や品質にどのような影響があるかが最近の研究課題になり、ウィルスフリー苗を利用する農家も増えている。
畑では、害虫や雑草が悩みの種である。アリモドキゾウムシ、ハムシの一種、コガネムシの一種の幼虫、ゾウムシの一種、コメツキムシの一種、トビハムシの一種などが問題となる(注7)。サツマイモの栽培面積が他の米国の作物と比べると、少ないので、農薬会社がサツマイモ向けの防虫剤を開発するのはそれほど魅力的ではない。登録されている防虫剤が少しはあるが、防虫剤の研究より、主な害虫、アリモドキゾウムシやハムシに強い品種育種の研究の方が進んでいる。
雑草では、カヤツリグサ科などの草である(注8)。多く使っている除草剤は1種類で、除草剤に強いサツマイモの品種の育種研究が進められている。この研究が成功すれば、市販されている除草剤を使用する可能性も増えるかもしれない。
同時に、サツマイモ栽培向けの防虫剤や除草剤の研究も進んでいる。
8〜11月上旬が収穫期で、収穫前、農家が機械でイモ蔓をイモから外す。2ウネ収穫機を使えば、14人で1日(8時間)1.5ha程度収穫できる。典型的な120haのサツマイモ農場では、2ウネ収穫機を3機使い、1日(8時間)約5haを収穫できるので、1週間で約25haを収穫できる。収穫が終るまでは約5週間かかる。
4ウネ収穫機ならば、23人で1日(8時間)5haを収穫できる。同機を持つ農家は大体200ha以上である。
ルイジアナ州でのサツマイモ4ウネ収穫機。23人乗り、1日で5haを収穫できる。労働者は、サツマイモの選別などをし、イモは、キュアリング庫へ直接運んで行かれるように、ベルトコンベヤーで直接、360kg箱に入れる。写真提供はDon LaBonte氏(ルイジアナ州立大学農業学教授)。 | |
横の様子 | |
後ろの様子 |
いずれにしても、収穫期間は長いので、早く掘る畑は春早く苗を挿し、遅く掘る畑は遅く苗を挿す。それで、苗を挿す時期は6週間程長くなることもある(注9)。
イモが360kg入りの大箱に入れられ、フォークリフトによりキュアリング庫や貯蔵庫へ運ばれる。
育種目的の1つが、機械収穫に強い品種や、イモのサイズが揃っている品種の育成である。サイズが揃えば、選別の手作業はなくなるし、単価は安くなるし、市場向けの割合をもっと増やすこともできる。
イモの傷をなおし、長く貯蔵できるようにするために、また、甘みを増やすために、キュアリングが行われる。3〜5日程、温度27度、85〜90%の湿度でキュアリングさせる。キュアリング後、温度16度、湿度85〜90%で貯蔵される。
必要に応じて、イモを洗い、40ポンド(約18kg)箱に入れ、市場へ出荷する。その時、ナンプ病が入る恐れがあり、それにより、イモが腐ってしまうこともある(注10)。市場向けのイモの殺菌剤の量を減らすために、ナンプ病に強い品種を育種中である。
サツマイモ出荷が多いのは9〜12月である。ピークは、11月の第4木曜日の感謝祭や12月25日のクリスマスである。この時期、需要が多いので、相場も高い(注11)。市場向けのイモが18kg箱で11ドル(1200円程度)(形が良いイモ、直径5〜9cmで、長さ8〜23cm)。離乳食用のイモが、主に、Lサイズ18kg箱で7ドル(770円程度)(形が良く、長さ21cm以上)。缶詰会社向けのイモが18kg箱で2ドル(220円程度)(傷付きイモや形が悪く直径5cm以下)(注12)。9〜12月以外では相場も下がり、市場向けのイモでも、18kg箱当たり5〜6ドル(550〜660円程度)まで下がることもある(注1)。米国政府からのサツマイモ援助金が出ないので、1年の相場に幅がある。
米国のサツマイモの3〜4割は缶詰になる。イモを蒸かし、皮をむき、味を付ける調理法は多い。1缶(約450g)110円程(1ドル110円の場合)。ブルース・フーズ(左)とアレーン缶詰(上)の2社がほとんどである。1999年1月。 |
スーパーに並んでいるサツマイモの缶詰(下の2段)。支店長のパット・ドジュロー氏がそれを持っている。 ルイジアナ州チャーチ・ポイント町にて。1999年1月。 |
米国全体のサツマイモの小売の売り上げが、2.5億ドル(約280億円)。そのうちの6割の1.5億ドル(約170億円)が農家の収入で、残りは、流通や小売関係などの収入になる(注1)。
サツマイモの加工品といえば、ほとんど缶詰しかない。イモの皮をむき、砂糖などの味を付けた後、缶詰となる。他に、ガーバーやハインツやビーチナッツなどの離乳食会社がサツマイモで離乳食のビン詰めを作る(注13)。ブルースフーズという缶詰会社がサツマイモのフレークを少し生産している(注14)。また、イモチップスも少々ではあるが、1995年頃から所々で出回っている。
農家の収穫量が、平均、1ha当たり、約15.7トン。このうち、6〜7割が市場向けのものである。市場向けのサツマイモの価格が1番良いので、その割合を増やすために(品種などの事情により)、イモ苗を挿してから90日目〜120日目ころに収穫する(注12)。18kg箱当たりの売り上げが1年平均5〜6ドル(550〜660円程度)であれば、農家は五分五分になる(注1)。
注2:1991年に、米国の最低賃金は3.80ドル(約420円)から4.25ドル(約470円)に上がり、1996年に、4.75ドル(約520円)に上がり、1997年に、5.15ドル(約570円)に上がってきた。(いずれも、1ドルが110円の場合)。米国労働省の報告書The Minimum Wageを参考に。
注3:米国の主な作物の多くに、必要な労働者の人数は機械化により、大分減らされてきた。穀物は特にそうである。けれども、サツマイモの場合、苗挿しでも、収穫でも、多少複雑な作業が必要なので、機械化しにくい面はある。性能の良い機械でも、サツマイモの栽培面積は少ないので、必要な機械が数百台あれば、全米のサツマイモ農家のニーズに十分合うので、農業機械会社の儲けはなかなか難しい。別の作物の作業機械を使えば理想的だが、ある程度、サツマイモの栽培状況に合うように、再デザインをする必要がある場合が多い。現在、農業試験場では、機械のデザインを工夫し、それを農家で試験的に使ってもらい、さらに、農業機械会社で、商品化を進めてゆくのが1つのパターンである。
サツマイモ栽培を機械化するためには、苗床の用意から収穫したものを出荷するまでの全体の流れを研究する必要がある。その関係で、新品種を育種するとき、機械化に合うものを1つの条件として検討する必要もある。(Abrams,
C.F., Jr., L.F. Stikeleather, L.G. Wilson, M.E. Wright, Mechanization
of Field Production, 参考文献2, p. 119-120,
125)。
注4:ボニアトというサツマイモの品種類についての情報がフロリダ州立大学より。
キューバのサツマイモ消費量の統計がFAOより。
サンフランシコ市のある市場では、コトブキという日本から導入されたサツマイモ品種がカリフォルニア州で栽培されている。そして、10月中旬〜2月中旬まで出荷されている。同市場のコトブキについて。
コトブキのカリフォルニア州での栽培面積はコトブキ農家、トム・ナカシマ氏よりの情報、1997年1月。
注5:Dr. Jonathan Schultheis 氏(米国ノースカロライナ州立大学園芸専門家)よりの統計(1998年5月14日の便りより)。
注6:Abrams, C.F., Jr., L.F. Stikeleather, L.G. Wilson, M.E. Wright, Mechanization of Field Production、参考文献2, p. 122。
注7:アリモドキゾウムシは西インド諸島から米国に入ってきた。1875年に、ルイジアナ州ニューオーリンズ市に定着した記録が1番早い記録である。その後すぐ、フロリダ州やテキサス州に広まり、1923年までには、東テキサス州、南ルイジアナ州、海岸沿いのミシシッピ州、アラバマ州、フロリダ州のサツマイモ畑で発見されている。その後、ジョージア州、サウスカロライナ州、アーカンソー州、テネシー州、ノースカロライナ州などでも現われてきた。アリモドキゾウムシを退治する方法は様々である。(Schalk,
J.M., L.H. Rolston, Insects, 参考文献2,
p. 106.)
アリモドキゾウムシ(Cylas formicarius elegantulus Summers,
sweet potato weevil)
ハムシの一種(日本語はない)(Diabrotica
balteata Leconte, banded cucumber beetle)
コガネムシの一種の幼虫(日本語はない)(Phyllophaga
spp., white grubs)
ゾウムシの一種(日本語はない)(Graphognathus spp., white
fringed beetle)
コメツキムシの一種(日本語はない)(Conoderus falli Lane, wireworm)
トビハムシの一種(日本語はない)(Chaetocnema confinis Crotch,
sweet potato flea beetle)
注8:カヤツリグサ科(sedges、例えば、Cyprus esculentus L.)。
注9:Dr. D. R. LaBonte(米国ルイジアナ州立大学園芸専門家)よりの便り、1998年7月10日。
注10:ナンプ病(rhizopus soft rot, Rhizopus stolonifer
(Her. ex Fr.) Lind)
1970年代のサツマイモの病気は主に3つの菌類であった:
つる割病(Stem rot, Fusarium spp.)
黒班病(Black rot, Ceratocystis fimbriata, Endoconidiophora fimbriata)
班紋モザイク病(Internal cork, Flavimacula ipomoeae)
品種改良や殺菌剤利用や栽培/貯蔵などの仕方の改良などにより、この3つの病気はなくなってきた。
注11:米国では、サツマイモのどんな品種が、どの産地から、どの程度の量が、どの市場で、どのくらいの価格で売られているか、時期ごとに、これらの統計があるところがある。フロリダ州立大学では、米国農務省、などのサツマイモなどに関する統計が整理してある。
注12:Collins, Wanda W., Sweetpotato, New Crop Fact Sheet, Purdue University, 1995。
注13:インターネットで離乳食会社のサツマイモ離乳食について見る場合:
ガーバー離乳食会社の離乳食リスト
カナダのハインツ離乳食会社
ビーチナッツ離乳食会社
Beech Nut Products を選び、又、Stage 1 を選べば、サツマイモ離乳食がリストで見られる
注14:Dr. D. R. LaBonte よりの便り、1998年5月8日。
米国のサツマイモの害虫や病理や雑草の日本語名を調査していただた小林仁氏(生物系特定産業技術研究推進機構、プロジェクトリーダー)、岡田斉夫氏(同上)、佐藤光興氏(元埼玉県園芸試験場鶴ヶ島洪積畑支場主任研究員)に感謝しています。必ずしも、米国のものが日本で問題になっているとは限らず、適当な日本語名がないものが多いようです。 |
1)LaBonte, D. R. and J. M. Cannon, "Production and Utilization of Sweetpotato in the United States," Proceedings of International Workshop on Sweetpotato Production System toward the 21st Century, edited by Dr. Don R. LaBonte, Dr. M. Yamashita, H. Mochida, March 1998, pp. 29-32。カンショ国際ワークショップ、九州農業試験場や農林水産省や科学技術庁主催、宮崎県都城市、1997年12月9〜10日。
2)Fifty Years of Cooperative Sweetpotato Research, A. Jones, J.C. Bouwkamp, editors, Southern Cooperative Series, Bulletin No. 369, April 1992。
3)Louisiana Agriculture, Vol. 40, No. 4, Fall 1997。
4)『日本有用植物病害虫名彙』(創立25周年記念、日本特殊農薬製造株式会社、東京、1966年)
Copyright by Barry Duell, 1999.